Watching! ヘルスケアイノベーション

Human Centered Healthcare Design(1)
〜アメリカから考える〜

  • No.9
本連載ではこれまで8回にわたり、主にデンマーク、アメリカのヘルスケアイノベーションについてお伝えしてきました。第9回から、これまでの総括とアメリカ、デンマーク、日本におけるそれぞれのヘルスケアイノベーションの違いについて、各国の医療制度と照らし合わせながらお伝えできればと思います。まず、アメリカから見ていきましょう。

Aging2.0 OPTIMIZEの最初のKEY NOTE、
MIT「AgeLab」Director & Founder、Joseph Coughllinの話がとても面白い。ベビーブーマーが高齢者になった今、どれだけビジネスチャンスがあるかというポジティブな話

2018年11月14日、15日、Aging2.0の年1回の大会であるOPTIMIZEがサンフランシスコで開催されました。毎年、アメリカを中心に、世界の各都市からアンバサダーが 50〜60名集まります。 今年のスタートアップピッチは、SOMPO Digital Labがスポンサーとなり開催されました。SOMPOホールディングス介護・ヘルスケア事業オーナーの奥村幹夫氏は日本の現状について、介護にはどのようなニーズがあるのか、そこにはテクノロジーがどのように求められるのか、人手不足であることと介護者の業務内容を踏まえて分かりやすく解説しました。参加したスタートアップからは、認知症患者への介入サービス、遠隔コミュニケーションロボット、身体バランスのトレーニングアプリケーションなどの提案がありました。日本のエイジングピッチに参加するスタートアップに比べて、事業範囲の広さが際立ちました。いわゆるヘルスケアテックという概念においては、技術的に飛び抜けて優れているというものは少ないと感じましたが、とにかく提案するサービスの幅が広いのです。 日本のような一律の介護保険制度というものはなく、所得保障制度、医療制度、社会福祉制度の枠組みが高齢者の所得水準によってかなり異なります。また、65歳以上の高齢者が加入する医療保険である「メディケア」においても、個人が自分にふさわしい保険を選択しなければなりません。パートA(入院保険)+パートB(診療報酬、通院医療、在宅医療、医療用具などをカバー)による公的保険、もしくはパートCの民間保険会社が運営するマネージドケア型保険のどちらかを基本的には選ばなければなりません。また、自己免責分を超えると、自己負担でまかなう必要があります。その他に、処方箋をカバーするパートDがあります。このように個人の責任において保険を選択しなければならないのです。低所得者向けには「メディケイド」という医療保険があります。かつては施設入所がベースとなっていた高齢者介護ですが、他国と同様、「施設から在宅へ」という考え方に移行しています。しかし、アメリカでは多くの高齢者が子供と暮してはいません。こうした背景から生じる課題をテクノロジーやコミュニティで支え、新しいビジネスを創りだそうというのがAging2.0の目指すところです。
Aging2.0の開催地サンフランシスコには、シリコンバレーをはじめ全米からスタートアップが集まってきます。そしてここでは、利用者(高齢者)を中心にした「Human Centered Design」、すなわち「デザイン思考」からAgingイノベーションが生まれるのです。最近は日本でも、問題解決プロセスとしてのデザイン思考が紹介され、イノベーションを生み出すためにはデザイン思考が必要であると言われるようになりましたが、技術志向の強い日本では、なかなか理解が進まないようです。基本、技術から発想するのではなく、現場のニーズ(潜在ニーズ)を発見し可能な限りの解決方法を探ることがデザイン思考です。日本では一つの課題に対してすぐに技術と結びつけてしまいがちですが、デザイン思考では、いくつもの解決方法をプロトタイピング(試作品)で模索しながら、ものづくり(サービスづくり)をしていきます。
今、日本でも介護ロボティクス、IoT、AIなど、先端技術によって医療・介護におけるイノベーションを実現しようという話題が増えていますが、どうも技術ありきの話が多いと感じます。まずそれぞれの利用者にはどのような課題があるのか、それらを解決することによって利用者の暮らしはどのように変わるのか。何通りものストーリーを考えた上で、課題解決のために技術はどうあるべきか、というシリコンバレー発のデザイン思考でヘルスケアイノベーションを考えてみてはいかがでしょうか?  次回は、デンマークの状況について考えていきます。
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阿久津 靖子氏

あくつ やすこ

株式会社MTヘルスケアデザイン研究所
代表取締役・所長
一般社団法人
日本次世代型先進高齢社会研究機構 理事
Aging 2.0 Tokyo chapter ambassador

筑波大学大学院理科系修士環境科学研究科にて地域計画を学び、GKインダストリアルデザイン研究所入社。プロダクト製品開発のための基礎研究や街づくり基本計画に携わる。子育て期を終えてからは数社にて商品企画開発および研究、店舗の立ち上げ、マネジメントを行う。その後、ヘルスケアライフスタイル創造を目指す製品開発や店舗プロモーションを模索し、(株)メディシンクに参画。2012年、デザインリサーチファームとして(株)MTヘルスケアデザイン研究所設立。