高齢者人口の急増が深刻化する東京。 特に地価が高い都心部では、 さまざまな介護サービスの拠点となる サ高住が早急に必要だ。 2017年3月、東京都中央区にオープンした 拠点型サ高住「ココファン勝どき」から、 都市型モデルのあり方を探る。
取材・文/富田 チヤコ 写真/吉住 佳都子
地域をつなぐ 「拠点型サ高住」とは
介護と医療が連携し、高齢者が安心して生活し続けることができる場として生まれた、サービス付き 高齢者向け住宅(以下、サ高住)。 高齢者の暮らしとケアの両面を支える住宅だが、地価が高い都心部では、建設したくてもそのための土地を確保するのが極めて難しい状況にある。
また単身の高齢者が増加し、要介護や認知症の高齢者も急増する 現代。サ高住は、単なる高齢者の 住まいではなくなりつつある。中でも「拠点型サ高住」は、地域にさまざまな介護サービスを提供しながら、 福祉・医療・地域コミュニティをつなぐ場としての役割を果たすことが期待されている。
例えば、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」。自宅で暮らす高齢者に対して、介護士と看護師が連携しながら、日中・夜間を通じて定期巡回と随時対応を行うサービスだ。また「小規模多機能型居宅介護」は、利用する高齢者の希望に応じて、施設への「通い」、短期間の「宿泊」、介護スタッフによる「訪問」を組み合わせることができる。これに より、家庭的な環境で地域住民とつながりながら、さらには日常生活の支援や機能訓練を行うことで、住み慣れた地域で安心して長く 暮らすことが可能となる。
こうしたさまざまなサービスを 併設しながら、地価の高い都心部に行政との共同事業として誕生したのが、拠点型サ高住「ココファン勝どき」だ。
都市部の高齢者問題の解消を目指す、都市型モデル
53階建てのタワーマンションには、3、4階がサ高住、2階に小規模多機能型居宅介護事業所、さらには訪問介護事業所も併設されている。まさに、都市型モデルのサ高住であろう。
ココファン勝どきのある中央区の場合、23区内でも地価が高い ため、サ高住の建設はますます厳しさを増すばかりだ。「都市部の高齢化は深刻化している。限られた土地を有効利用するために、地域を再開発する段階から介護サービスの拠点となるサ高住を基点にしたまちづくりが重要になるだろう。最期まで安心して住み続けることができるまちを行政とともに考えていきたい」と話すのは、(株)学研ココファン社長の五郎丸徹氏。
さらに、生きがいを持って地域で活躍できる仕組みづくりも必要だ。「スタッフの中には、厨房で働く60代以上の人もいる。シニアと呼ばれるようになっても、元気でいる限り 『高齢者を支える側』でいること。 これからは専門職の資格を持っている高齢者が、地域で長く活躍できるような場も大切だ」という。
開かれたサ高住を目指して
「介護職員として地域を支えたいと思う人がいれば、制度的に多少のハードルはあるが、サ高住で介護職員教育をしてもいい。サ高住に併設して、子供達が通う保育園や学童保育があってもいい。サ高住だからこそ、いろいろなサービスを自由に組み合わせることができる」と話す五郎丸氏。
目指しているのは、0歳児から100歳を超えた高齢者まで、世代を超えて住み慣れた地域で安心 して暮らし続けることができる 『学研版地域包括ケアシステム』だ。国が目指す地域包括ケアシステムは、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体となったものだが、これをさらに発展させたのが学研版だ。
そのためにも地域住民にとって「開かれたサ高住」になるために、同社が展開するサ高住では、4月から新たに配食サービスも開始。 「学研のあんしん配食 ココファンのお弁当」*として、サ高住で提供している栄養バランスのとれた 食事をお弁当にして、地域で暮らす高齢者に専門スタッフが手渡しで配達する。このため、安否確認の精度も高く、高齢者の見守りの 役割も果たすことにつながる。
また地域交流の場として、自立した高齢者を対象にした「学研 大人の教室」*もはじめる。認知症予防をテーマに、脳元気タイムという学びのアクティビティのほかに、運動と美術を組み合わせた90分のプログラムだ。もちろん場所は、サ高住の食堂などを利用する。 「地域の皆さんには、サ高住をもっと身近なものに感じてもらいたい。配食サービスや大人の教室を、そのためのきっかけにしたい」と話す。
サ高住の存在そのものが、人とまちをつなぎ、新たなコミュニティを育む場となりつつある。今後 ますます注目が集まりそうだ。
*「学研のあんしん配食 ココファンのお弁当」 「学研 大人の教室」は、4月現在一部拠点で サービス提供を開始
ココファン勝どき(総戸数/34戸)に 併設するサービス
五郎丸 徹氏
ごろうまる とおる
株式会社学研ココファン代表取締役社長
一般財団法人サービス付き高齢者向け住宅協会 理事