前2回の執筆者である田宮菜奈子先生からバトンタッチ。
人とコミュニケーションに着目して本コーナーの執筆を担当します。
ヘルスサービス リサーチとは
ストラクチャー(構造)、プロセス(過程)、アウトカム(成果)の3概念を基本に、現場のデータ・国や地方自治体の調査データなどを活用して、保健医療福祉に関するサービスの質を科学的に評価、分析する研究。医学・経済学・社会学などの学際的な視点からも考察する。
そんなときに自分も相手も大切にするコミュニケーションであるアサーティブ、自分の強みの資質を知るストレングス、それを活かしきるためのコーチングという言葉と出会いました。ちょうど2008年から2010年にかけてでしょうか。自分の気持ちは後回しにして、相手の気持を慮ることを美徳として教えられ、強みを自覚する機会もないまま弱点を補う努力を良しとする教育を受けてきたことに、今更ながら愕然としました。
本を頼りに独学で勉強し、それを研究室内や学生とのやり取りの中で試行する、研究と並行して、別のワクワクとする毎日が始まりました。それは取りも直さず、相手に変化を求めるのではなく、自分自身の相手に対する向き合い方を基本から変えてみるということでもありました。改善点より優れた点に着目すること、答えは相手の中にあることを信じ待つこと、相手を理解し耳を傾けること、これらを心がけるだけで相手とのコミュニケーションが良好になり、皆が生き生きとしてくるのを感じました。そこで、アサーティブ・トレーナーになるために、約一年に渡って勉強を重ねました。そして遂には、強みの資質を知るウェブツールとコーチングの開発を行ったギャラップ社のストレングス・コーチ取得のためのコースに、夏休みを返上して参加しました。研究や大学の外のコミュニティの知り合いもたくさんでき、私の中に多様な価値観、視点をもつ世界ができあがりました。それらの中で、冒頭の持論にたどり着きました。
2016年末に基礎研究者としての生活に終止符を打ち、大学を退職して独立、フリーランスとして新しい人生を始めました。医師であることに加え、ストレングス・コーチ、アサーティブ・トレーナーという資格を活かし、企業や個人向けに「ストレスを溜めないコミュニケーション」「自分の強みを知って貢献する」ための研修などを行っています。と同時に、介護・看護の分野でアサーティブやストレングスを導入し、一人ひとりの幸福度と仕事に対するエンゲージメント、サービスの質の変化を研究するため、筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野の田宮先生とともに新しい歩みを始めたところです。私の幸福度は年々上昇しています。と同時に、私の人生に対するエンゲージメントも高まっています。
本間 季里氏
ほんま きり
筑波大学医学医療系 客員教授
医師・医学博士・日本医師会認定産業医・NPO法人アサーティブジャパントレーナー・Gallup社認定ストレングス・コーチ
1986年筑波大学医学專門学群卒業。臨床医・基礎研究者として働く中で、個人の強みを活かしチームとしての高い生産性を維持するために、自他尊重のコミュニケーションであるアサーティブや、コーチングの重要性を学ぶ。2017年に独立し、産業医としてメンタルヘルスに関わるほか、医療・介護分野や働く女性を対象とした研修、幸福度と仕事や組織に対するエンゲージメントの関係を研究している。