「第15回 住まい×介護×医療展 2020 in東京」が
東京・大田区の東京流通センターで開催される。
メディアが展示会を開催する意義とは?
住まいと介護、医療をつなぐためのメディアの役割とは?
高齢者住宅新聞社代表取締役社長の網谷敏数さんに伺った。
取材・文/小林 みさえ 写真/吉住 佳都子
「住まい」から「暮らし」へと着目
「週刊高齢者住宅新聞」を創刊
網谷さんが高齢者住宅新聞創刊前に手掛けていたのは、家主や管理会社向けの賃貸住宅の業界専門紙「全国賃貸住宅新聞」である。十数年携わっていた中で、2000年に介護保険制度が始まり、高齢者向け賃貸の住宅制度も次々と整備されていった。その過程で網谷さんは「必然的に介護マーケットに関心を持つようになった」という。さらに、これからの高齢者の住まいのあり方とその暮らしにおける介護と医療の情報に特化した新たな業界専門紙の構想を描いていった。
「最初は全国賃貸住宅新聞で介護保険や高齢者向けの住宅制度を記事に取り上げていましたが、だんだんと高齢者向けの住宅には介護と医療が必要不可欠なものであることがわかり、もっと深堀りしていこうと考えました。自分が住宅の専門紙をやってきたこともあり、住まいの延長上に介護と医療をつなぐ専門紙をやろう、そしてメディアも介護、医療、住宅とバラバラに存在している状態でしたので、それらを1つにつなげて、関わりのある企業全てに情報を提供するようなB to Bのメディアをやろう、というのがきっかけです」と網谷さんは語る。
高齢者向け住宅といえば、真っ先にサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)のような集合住宅をイメージするかもしれないが、高齢者住宅新聞の「住まい」の対象はそれだけではない。一軒家、グループホーム、有老(有料老人ホーム)、特養(特別養護老人ホーム)など、高齢者が居住するすべての住宅を網羅している。だからその先にある在宅での介護や医療の話題や商材・サービスについても当然扱う。こうして「週刊高齢者住宅新聞」は、2006年4月に創刊され、今や介護事業者、医療機関をはじめ、介護医療関連のサービス会社や不動産会社など、業界に携わる多様な読者層に最新の話題を発信し続けている。
展示会の取組みで
業界への貢献を加速させる
一方、展示会の事業も「高齢者住宅フェア」として、新聞の創刊1年目から取り組んできた。介護医療とその周辺のサービス会社や不動産会社など、それぞれのビジネスに直結する商材やサービスを展示、商談できる場として開催してきた。そして、2018年から展示会の名称を「住まい×介護×医療展」と変更した。
「『高齢者住宅フェア』でも高齢者住宅に関係する人たちがたくさんやってきました。同時に在宅医療や介護関連も含めて展示会を行なってきたのですが、サ高住や有老、特養、ケアハウスなど入居系の住宅フェアと誤解されることもありました。そこで名称を変え、目的を明確にし、間口を広げて、住まい、介護、医療に携わる皆様に来ていただけるようにしました。事業に役立つ情報収集をしていただき、リアルタイムな情報を経営に生かしていただければという思いからです」と網谷さんは話す。
また、展示会では毎年メインテーマを設けている。昨年7月に開催した「第14回 住まい×介護×医療展」では「チャレンジする介護マーケット」と題し、産経新聞「100歳時代プロジェクト」とタッグを組み、論説委員や医療や損保、人材業界の第一人者をパネラーに迎え、100歳時代の介護や介護業界で求められる人材育成についてパネルディスカッションを行なった。時代の変化に合わせて業界における課題を明確化し、新聞だけではなく展示会というかたちをも利用して発信し、高齢者住宅新聞社の存在意義を高めていったのだ。
「イノベーションで拓く」
今春開催の展示会の見どころ
今回の展示会メインテーマは「イノベーションで拓く介護のミライ」。そして、複数のテーマのもとに展示コーナーを設ける(末尾案内参照)。また、新たな試みとして、保育の地域支援・スタッフ確保のための「保育フェア」のコーナーもつくり、多くの事業者が出展予定である。介護医療セミナー、座談会なども多数開催される。
特に今年の共催・コラボイベントでは「医療福祉業界 就職セミナー(マイナビ主催)」も初開催され、新卒者を中心に仕事探しのコーナーを展開する。「住まい×介護×医療展」内で開催することで、志望者に福祉・介護・医療の業界の活発さや有望性を肌で感じてもらうことも狙いのひとつだ。「業界が育つためには、まず人が集まらなければいけない。介護業界のネガティブなイメージを払拭したい」という網谷さんの言葉には未来を見据えた思いが込められている。
また、昨年に引き続き「介護人事AWARD(リクルートキャリアと共催)」も開催し、優良事例を共有し現場のモチベーションを高める。さらに展示会の目玉のひとつとして、元厚生労動省老健局長の中村秀一さんが主宰する「医療介護福祉政策研究フォーラム(番外編)」を開催する。「介護保険20年、検証と展望」をテーマにディスカッションが行われる。慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授の堀田聡子さんも登壇予定だ。介護保険制度がスタートして早20年が経過し、その間介護事業者の経営を左右するような制度改正もみられた。将来を展望するためにも、これまでの検証が必要である。
今回のメインテーマのキーワードである「イノベーション」には、「新しい発想でマーケットを切り拓いて、健全な介護マーケットを作っていこう」という意図が込められている。「介護予防や生活支援、食事など介護医療以外のインフォーマルな部分が、これからの超高齢社会を支えていく要素になっていくと思います」と網谷さんは言う。
優良な介護マーケットの
育成のために
最後に網谷さんは業界へのメッセージを熱く語った。
「私たちは新聞メディアとして、住まいから考える介護・医療業界の動きを追っています。ただ情報を提供するだけではありません。『業界にいかに健全なマーケットを作っていけるか』を念頭に取材をしています。残念な不祥事もありますが、それも含めて真摯に向き合いながら報じています。ですから今回の展示会も新聞の視点の延長にあり、『健全な業界のあり方を見ていただこう』と考えています。そして、メディアだからこそできる『情報の厚み』が込められていることにおいても、他の業界イベントとは一線を画しているという自負があります。常に業界を見渡している新聞社が、関連事業者とともに正しく優良な介護マーケットの育成ができるよう、新聞と展示会を通じ、これからも新聞社ならではの価値ある情報を発信していきます」
情報の価値は、最終的には受け手の判断に委ねられる。しかし、情報を発信する側の姿勢が社会に与える影響は大きい。高齢者住宅新聞社の展示会に対する姿勢には、「メディアとしての責任」が感じられる。そして、その姿勢の根底にあるのは、当然ながら「メディアの倫理」である。
網谷 敏数氏
あみや としかず
株式会社高齢者住宅新聞社
代表取締役社長
1968年生まれ、千葉県出身。青山学院大経済学部卒業後、亀岡大郎取材班グループ(株)全国賃貸住宅新聞社入社。全国的なイベントとなった「賃貸住宅フェア」の企画・運営に当初から携わり、住宅セミナー講師としても講演多数。2003年から3年間、(株)全国賃貸住宅新聞社代表取締役社長を務めた後、2006年4月「週刊高齢者住宅新聞」を創刊。現職に至る。