Watching! ヘルスケアイノベーション

Aging2.0 Asia-Pacific サミットに参加して

  • No.52017年12月1日発行
10月12日、台北で開催されたAging2.0 Asia-Pacificサミットの様子をお伝えします。


今年4月より、私はAging2.0 Tokyo chapterのアンバサダーを務めています。Aging2.0は2012年に、Katy FikeとStephen Johnstonによって設立されました。世界中の高齢者の生活を改善するために、イノベーションを加速することを目的としたプラットフォームです。Agingについては、これまでは、高齢期の健康問題に対して、主に行政・福祉が介入する単なる施設ベースの取り組みという限られた考え方(Aging1.0)でした。これに対して、Aging2.0は、すべての人間が歳を重ねる中で、健康で良好な生活を続けるために直面する問題について、「コミュニティベースでビジネスが解決できる機会の創出」という考え方への移行を提唱して活動しています。

先端技術と共に育った若い世代を巻き込んで、投資家や大企業、高齢者ビジネスの既成業界である医療機関や介護サービスなどの事業者とマッチングし、高齢化社会が生み出す巨大市場のニーズに応えるイノベーションを創出するハブになることがAging2.0の目的です。

周知のとおり、日本は世界の中でも一番の超高齢社会先進国ですが、高齢化社会については悲観論が先行し、そこに新たなビジネスを生み出すという視点で高齢化を見つめるまでには至っていません。しかし、これまでデンマークでのイベントやAging2.0のネットワークを通じて体感したことですが、海外から見ると、日本は超高齢社会のモデルであり、人々の関心はとても高いようです。このため、アジアと世界の高齢者、高齢社会に対する課題を見出し、解決し、高齢化にむけてポジティブなイノベーションを生み出し、世界に発信していくことが、Aging2.0 Tokyo chapterの意義であると私は思っています。

Aging Innovation weekのポスター

そんな思いも抱きながら、10月12日、台北で開催されたAging2.0 Asia-Pacificサミットに参加してきました。Aging2.0 Asia-Pacificサミットは今年初めて開催されたAging2.0のイベントで、台北でのAging Innovation weekの一環として開催されました。台湾のSilver Linings Global、Aging2.0、弘道老人福利基金会との共同主催で行われたものです。

Silver Linings Globalは高齢化および医療領域でのグローバルマーケティングや、イベントなどのコンサルティングを行っている会社ですが、もともとは弘道老人福利基金会が企画した平均81歳の老人17人の「13日間バイクの旅」を企画したのが始まりです。このバイクの旅は、人気のドキュメンタリー映画「グランライダーズに行く」として、2012年に劇場にリリースされました。この映画が米国で初公開されたとき、モデルとなったグランライダー10人がカリフォルニアに行き、サンフランシスコからロサンゼルスへのツアーを行ったそうです。この時メディアの報道では、台湾について、高齢者にやさしく「活発な高齢化」のコンセプトにおいて進歩した国として伝えたそうです。また、Silver Linings Globalを生み出した弘道老人福利基金会は、超高齢化社会における課題解決のために、1998年に創設された財団法人で、三世代同居家族の表彰(現代の親孝行を推進)、全国ボランティアステーション、地域配食サービス、地域介助ネットワーク、愛の宅配(訪問介護サービス)、デイサービス、短期入所生活介護(ショートステイ)、趣味と憩いの場、等々高齢者福祉のための様々な活動や事業を行っています。

人気のドキュメンタリー「グランライダーズに行く」 のDVDです

SILVER LININGS GLOBALのCo-FounderのHsin-Ling Tasaiさん(写真中央)、SOMPOの
池端さん(写真左)と一緒に記念撮影。SOMPOはAging2.0のグローバル・スポンサー企業です

台湾は、1993年にWHO(世界保健機構)の定義する「高齢化社会」へと入り、その時点で65歳以上の高齢者が総人口の7%に達していました。数年前の行政院主計局の予測によると、台湾の高齢化率は、2010年には10%、2020年には14%に達し、2031年には20%と、5人に1人が高齢者になるとのことです。しかし、日本より少子化が早く進み、実際には台湾の高齢化の速度は行政院の予測よりもずっと早く進んでいます。2007年3月には、台湾の高齢者人口はすでに総人口の10・05%となり、予測よりも3年早く到達。現在の予測では、2018年には14%となり「高齢社会」に突入、2026年には20%を超え、いよいよ日本と同様に「超高齢社会」の仲間入りをすると言われています。そのため日本以上に高齢化社会に対する関心が高く、今回300人が参加するイベントでしたが、若い人たちで埋められていたのが印象的でした。Aging2.0 Asia-Pacificサミットには、台湾以外の地域では米国のヘッドクオーター、シンガポール、香港、そして日本から参加していました。1日だけのサミットでしたが、その内容はアジアに共通する課題です。
仏教界が提案するAIスピーカーを使った在宅宗教サービス。
見守りシステムとしても展開

当日は、3つのパネルディスカッションで構成されていました。生きがい・高齢者のためのイノベーション・生活コミュニティの3つです。この3つのテーマは、現在アジアの国々が抱える課題として共通しています。台湾同様アジアの新興国では、急激に少子化が進み、家族中心から個人中心へと社会の変革が進んでいます。また、日本のような介護保険制度もないため、民間でのイノベーションの必要性に対して若い人が真剣に向き合っているのが印象的でした。例えば香港のHappy Retiredという高齢者のビジネスマッチングを行っているCEOや、シンガポールでAging Asiaというグローバルなネットワークでインキュベーションビジネス(創業・新事業創出を支援するビジネス)を展開する女性CEO、若者と高齢者がともに暮らすことができるコミュニティを台湾で拡げている活動など、ポジティブに高齢社会から新しいビジネスモデルを作り出そうとしている状況を知ることができました。Start–up20社によるショーケースもありました。その中で、アジアらしいものがいくつかありました。AIスピーカーを活用し、家でもお寺のお説教を聞くことができ、お経も家で唱えることができ、そしてそれ自体が見守りシステムとなるようなもの。また、認知症進行予防のための高齢者向けの玩具。形が中華の蒸し器になっていて、そこに何があるかを言い当て、それを箸で取り出すものなどがありました。香港には高齢者向けの玩具ライブラリーがつくられていて、高齢者に提供しつつ、そのエビデンスを取り続けています。その担当者からは、今後日本とも連携し、文化による違いなどを一緒に研究できないかとの相談も受けました。

これからのアジアにおける高齢化の課題解決に向けたイノベーションについて、熱い議論が交わされた一日でした。そして、2018年にはAging2.0 Asia-Pacificサミットを日本で開催する予定で検討を行っています。読者の方でご関心のある方がいらしたら、是非私の所へお声掛けいただければと思っています。次回は、2017年11月開催のAging2.0の世界大会である“OPTIMISM”をご紹介する予定です。

飲茶の玩具で認知症予防を

教本、教具の使い方、データの取り方が記載されています

サミットのエンディングは高齢者で締めます。ダンスと竹馬パフォーマス
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阿久津 靖子氏

あくつ やすこ

株式会社MTヘルスケアデザイン研究所
代表取締役・所長
一般社団法人
日本次世代型先進高齢社会研究機構 理事
Aging 2.0 Tokyo chapter ambassador

筑波大学大学院理科系修士環境科学研究科にて地域計画を学び、GKインダストリアルデザイン研究所入社。プロダクト製品開発のための基礎研究や街づくり基本計画に携わる。子育て期を終えてからは数社にて商品企画開発および研究、店舗の立ち上げ、マネジメントを行う。その後、ヘルスケアライフスタイル創造を目指す製品開発や店舗プロモーションを模索し、(株)メディシンクに参画。2012年、デザインリサーチファームとして(株)MTヘルスケアデザイン研究所設立。