地域のリハビリ力を底上げする
2017年春。東京都練馬区の大泉学園に、リハビリ専門病院と老人保健施設を併設した複合施設が誕生する。院長に就任予定の酒向医師は現在、新病院の建築や運用の準備を進めているところだ。練馬区の人口は72万人。脳卒中等に対応するための高度医療機関は乏しく、区内の患者の半数以上は区外に運ばれる。リハビリ専門病院も乏しく、在宅サポートとの連携体制も弱い。「リハビリ医療資源がない地域に貢献するのがミッション」と考えていた酒向医師にとって、練馬地域でのオファーを断る理由はなかった。練馬区版の「健康医療福祉都市構想」を提言、地域の急性期・慢性期医療施設の経営者、介護従事者、認知症その他の患者支援団体、街づくりのNPO、町内会、商店会などからなる委員会を立ち上げた。新病院に加え、高齢者センターと街角カフェが作られる予定だ。いずれは都営大江戸線が延伸し、新病院のすぐ近くに新駅ができる計画もある。
「練馬区外でもなるべく近隣の脳卒中センターと連携し、退院後、リハビリが必要な方は当院で入院治療させていただききます。ある程度回復してご自宅に帰ったあとは、地域のかかりつけ医の先生方に再発予防を継続していただき、リハビリは当院の外来リハと短時間通所リハで支援させていただきます」 新病院は既存施設のリハビリスタッフの指導や研修も担い、地域のリハビリ力を全体的に底上げする計画だ。
最後に、地域包括ケアの成功のヒントを聞いてみた。
「医療者だけではできないということを理解してほしいですね。いかに街の人と情報共有するか。その仕組みをつくればそれが地域包括ケアになります」
さらに、こう付け加えた。
「超高齢社会になればなるほど、地域包括ケアの対象になる方の境界線が不明瞭になってきます。障がい者、高齢者、がんの術後の方など、ボーダーラインの方が増えますが、その人たちを街から切り離さず、困ったときにどこに相談すれば解決できるかがわかる街になればいい。もし解決するための手立てがなければ、それは作らなければいけません」
施設を作って終わり、ではなく、そこに暮らす人たちとの連携のなかから、「いま、この地域には何がないか」に目を向けることが、地域のケア力の向上につながるのではないだろうか。(取材・文/中保裕子)