Watching! ヘルスケアイノベーション

在宅でのヘルスケアデザイン
デンマーク高齢者のライフスタイルから

  • 創刊号2016年9月15日発行

実際の暮らしぶりをご紹介しましょう

2011年に私たちが訪れたのは、オールボーにあるシニア共同住宅OLDE-KOLLE。ナーシングホームに入るより気の合う仲間と共に助け合いながら暮らそうと、自分たちで相談して思い通りに建てたという共同住宅でした。デンマークでは18歳になれば皆独立して家を出て行きます。したがって、そもそも家族に頼って暮らすという考えはありません。できるだけ自立して生きて行くために、早めに住み替えるという考え方をもっています。

1988年、デンマークは高齢化率の上昇による財政逼迫を背景に、「できるかぎり長く自宅に住み続けるために、早めに住み替えること」を奨励する政策に舵を切ります。高齢期をいきいきと健康に暮らすためには、心身の状態にあった、社会との交流も維持される住宅に早めに住み替える。生活にサポートが必要であれば、外部からのサポートサービスを入れる。彼らが住んでいるのは住宅(プライエボーリ)であって、老人介護施設(プライエム)ではありません。自分たちが暮らす終の棲家なのです。r0017194

OLDE-KOLLEの各居室は58㎡前後で、ダイニング・リビング・ベッドルーム・バスルームが完備されています。インテリアセンスのよさは、さすがデザインの国デンマーク。それぞれのテーマカラーでうまくまとめられています。各住戸はアトリウムになっている廊下でつながっています(中央写真)。冬の長いデンマークでは、外に出られない時もアトリウムを通じて行き来し、そこにあるテーブルを囲み楽しみながら暮らしています。

具合が悪い時やサポートが必要な時には、外から看護師が訪問します。ITによる服薬サポートも通常に行われていました。現地でコーディネートしてくれた方が血液凝固を防ぐ薬を服薬していましたが、血液のデータをディバイスで自ら計測し、数値をメールで転送。医療者が数値を確認して服薬指導をします。こうしたテレメディスン〔遠隔診療〕は、2011年のデンマークではすでに当たり前のことでした。医療費のすべてが国費でまかなわれているため、医療や介護の効率化のために早くからICTが有効活用されているのです。  そして2016年5月、オーデンセを訪れ、認知症の患者のための住宅(プライエボーリ)Svovlhattenを視察しました。  ここは住宅ですので、日本の介護施設のように皆おなじプログラムでレクリエーションをするようなことはありません。個々の状況にあわせたプログラムが用意され、食事の時間もリハビリも皆それぞれ。システムで一元管理され、個々の利用者のプログラムを呼び出せば、進捗状況や申し送り事項などがわかります。

p1020796 五感を刺激して行うプログラムがありました。音楽にあわせて星の瞬きを見ながらマッサージを受けるシステムです。こうしたトリートメントや機能維持のためのリハビリ、回想療法など、いろいろ組み合わせることによって認知症の進行を少しでも遅らせようとしています。薬はほとんど使わないそうです。施設は開放的に作られ、もちろん柵はありますが、柵の前には植物があり閉鎖感は全くありません。全体にゆったりした快適な時間が流れる施設でした。