時折小糠雨の降る6月初旬、 北海道岩見沢市にオープンした「まるごとケアの家いわみざわ」を訪ねた。この4月、「マギーズ東京」*1 で、今は故人となった村上智彦氏の話を聴いて、訪れたいと思っていた場所である。 「まるごとケアの家」とはどんなところなのか。
取材・文/編集長 加藤 桂示 写真提供/ささえる医療研究所
地域の中にある普通の「家」
そこは、住宅がゆったりと建ち並ぶ通りに面した平屋建ての一軒家。「訪問看護ステーション」や「居宅介護支援事業所」というような、この場所が何であるかを示す看板すらまだ表には設置されていない。施設や事業所であることを感じさせる雰囲気がないのだ。そこは地域の人が普通に暮らしていたとしても少しもおかしくないような当たり前の建物なのである。その家(そう、まさに何の変哲もない家なのだ)を包み込む静かな空気は、ひととき私にここを訪れた目的さえも忘れさせてしまうのだ。
「まるごとケアの家いわみざわ」は、そんな雰囲気をまとっている。宮崎の「かあさんの家」*2が「地域に生えてきた」のであるならば、「まるごとケアの家」は、「もともと地域の中にあり続けていた」ように思える。そして時代の必要に応じて(あるいは時代の潮流に刺激され)、その名称を与えられ、あらためて地域に向けて扉を開いたのだ。そこには、新たに加工されたような異質感はなく、だから、オープンしたてであっても不思議な懐かしさを感じさせるのだ。
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