「まるごとケア」をささえる物語
「ものがたり合宿」で「まるごとケアの家」のコンセプトが誕生したのと相前後して、「まるごとケアの家」となる物件の購入が決まった。それ以前から「ささえるさん」のスタッフたちは、自分たちの想いを叶えるための場所を探していた。「そんな時にクリニックの近くの空き家に『売却』の看板が出ていたんです」。ささえる医療研究所事務局長の山田奈緒美さんは言う。とんとん拍子で契約までこぎつけ、そして半年後には「まるごとケアの家いわみざわ」がオープン。いかにも急展開であるが、その底流には即断即決をささえる物語がある。
「訪問診療をしている患者さんでがんの方がいらっしゃいました。ところが、その方を看ていた娘さんもがんになってしまったんです。そして親御さんを残して亡くなってしまいました。在宅で暮らしていきたいのに現行制度だとどうしようもなくて、なんとかその人を看る方法はないかとみんなで考えていました。家があって、いつも目の届くところにいてもらえて、何かあったら対応する。そうすれば在宅と同じように生活ができたんじゃないかな、という想いがありました」と山田さんは語る。
あずかってあげられる、それによって家族も安心させてあげられる、こまった時には看護師も介護士も医師もいて、みんなでその人を看てあげることもできる。それを制度の枠組みの中でやろうとすると、資金を投じて施設をつくって、役所の認可をもらって・・・、という大きなことになってしまう。そうではない、医療と介護の隙間を埋めることのできる、現行の制度にとらわれない場所づくりをしたいという想いが山田さんにはあった。
そして、「楽しいことを企画して、人の集まれる場所になったらいいな」と。そんなことを考えていると、賛同してくれるスタッフが他にも数人いて、そのスタッフたちで資金を出し合いこの物件を購入したのだ。建物の手直しや掃除も、土曜や日曜にスタッフとその家族が総出で行った。それだけに愛着を持てるという。
「先生(永森さん)は、もうお任せで、口を出したり手を出したりしませんでした」と山田さんは言う。「先生が動くと、地域の場所なのに先生の場所になっちゃうから、そこは先生も意識していたのだと思います」