遠隔医療と介護をサポートするシステム
一方で、デンマークにおける情報共有システムは、移動時間の短縮など、システム全体の効率性を目的に導入されることが多いようです。市民(患者)とのコミュニケーションツール/高齢者向けリハビリテーションITソリューション/介護士・施設用管理システム/遠隔コミュニケーションロボット/ 施設効率支援システム/ 遠隔ウェアラブルトレーニング機器記録/日常生活サポートアプリ/糖尿病管理サポートアプリ/ビデオトレーニングサポート/投薬管理サポートディスペンサー。これらを今回の展示会で見ることができました。在宅を遠隔でサポートすることは、医療においては当たり前になりつつありますが、リハビリに関しても遠隔サポートが広がろうとしています。
デンマークの医療介護ネットワークと戦略
このようにデンマークでは、医療や介護を支えるネットワークシステムがあります。今回の視察では、ヘルスケアデンマークのチーフコンサルタント、Anne S metanaさんの、デンマークのヘルスケアシステムに関する講演を聴く機会を得ました。
デンマークでは、1994年にヘルスケアデータネットワークの構築がスタート。2 0 0 3 年には、Eヘルスケアポータルが稼働しています。現在はこのポータルを活用して、個人では、治療に関する健康データやGP(かかりつけ医)の診療録、処方箋の記録にアクセスできたり、医療施設の予約や処方箋の更新をすることができたりします。さらには、医療情報を見たり、糖尿病のサポート(投薬や生活指導)を受けたりすることもできます。患者同士のコミュニケーションにも活用されています。医療者は、患者のデータにアクセスできるだけでなく、ポータル上で他の医師とカンファレンスをしたり、健康、病気、治療に関する最新の正確な情報を入手したりすることもできます。
現在、デンマークではモバイルヘルスを活用した施策が行われています。2013年から2020年にかけてのEヘルスとテルヘルス戦略として、本格的なスマートホームの導入、備え付けのリフトの設営、遠隔で指導と評価を行うリモートリハビリ、介護ロボットの本格的実装などが挙げられています。今回2日目に訪れたAktivitet og t ræningは、古くはサナトリウム施設でしたが、2020年には多くの利用者が活用できるリハビリテーションの総合施設になる予定で、その周辺には内科、整形、精神などの研究施設が整備される計画です。
本ポータルサイトに集積されたデータは、副作用を軽減するための個別化医療にも応用されています。デンマークでは、政府目標として「COPD(慢性閉塞性肺疾患) *1や糖尿病の患者のプライマリケア(GP)での治療改善および緊急入院の20%減少」を掲げており、データを活用した予防医療と在宅医療、在宅ケアを推進しています。日本でも、地域医療におけるデータ連携や介護ロボットの活用、ヘルスケアデータのさらなる活用が話題になっていますが、今回の訪問で、デンマークのすでに構築され、実際に稼働しているシステムを見ることができました。
*1 慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronicobstructive pulmonary disease)とは、従来、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称。タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患であり、喫煙習慣を背景に中高年に発症する生活習慣病といえる( 出典:一般社団法人日本呼吸器学会ホームページ)
阿久津 靖子氏
あくつ やすこ
株式会社MTヘルスケアデザイン研究所
代表取締役・所長
一般社団法人
日本次世代型先進高齢社会研究機構 理事
Aging 2.0 Tokyo chapter ambassador
筑波大学大学院理科系修士環境科学研究科にて地域計画を学び、GKインダストリアルデザイン研究所入社。プロダクト製品開発のための基礎研究や街づくり基本計画に携わる。子育て期を終えてからは数社にて商品企画開発および研究、店舗の立ち上げ、マネジメントを行う。その後、ヘルスケアライフスタイル創造を目指す製品開発や店舗プロモーションを模索し、(株)メディシンクに参画。2012年、デザインリサーチファームとして(株)MTヘルスケアデザイン研究所設立。