医療や介護の制度にはない ケアを地域力で実現
病院でも、介護施設でもない相談窓口。医療・福祉制度だけでは受け止めきれないニーズに応えるような活動は、秋山氏のこれまでの経験に根ざしている。
秋山氏は1992年、老人保健法の改正により訪問看護ステーションが制度化されたその年に、訪問看護の活動を始めた。 対象を家族ケアにも広げて地域の中に少しずつ多職種のチームをつくり、認知症や老衰の高齢者を入院させることなく、それぞれの自宅で、何人も看取った。 そのケアに満足した遺族がボランティアとして参加し、また仲間になる―――。
「地域包括ケアは私にとっては目新しいことではなく、”やってきたこと“。先取りしたという思いはありません。 地域にニーズはあっても、医療や介護の制度にはないケアを、どうやって地域の力をつなげて実現するかを考えてやってきただけ。 制度化されていないことには報酬はついてきません。 でもそれがどういう形で広がっていけばいいかをいつも考え、提案していかなければという思いでやってきました」
「つながる」ために「伝える」
新宿区の団地「都営戸山ハイツ」の一角にある「暮らしの保健室」は、「もっと気軽に、話をよく聞いてもらえる場所があれば」という多くの利用者の声を受け、秋山氏が立ち上げた。
「これは何とかしなければいけないと思いました。訪問看護の依頼があれば行く、というだけではなくて、地域の中に相談窓口を開く必要があるのではないかと」
2008年、国際がん看護セミナーに登壇者として参加した秋山氏は、英国の「マギーズ キャンサー ケアリング センター」を知る。話をじっくり聞き、その人の力を引き出していく相談支援のスタイルに魅力を感じ、2011年、「マギーズセンター」の考え方をベースとした相談支援の場「暮らしの保健室」を開設した。 この施設は、「マギーズセンター」同様、相談無料というスタイルで、相談を受けるのは常駐する看護師。 そのほか、地域の住民や、家族の介護経験のある人など約40名のボランティアたちも、お茶を出したり世間話の相手をしたりと活躍する。
「地域の力を貸してくださいとお願いしたら、市民の皆さんが『今度は自分たちが支える番だ』とボランティアに加わってくださいました。 私たちにとって最大の味方は地域の方々。 その方々を大切にし、日々のケアを地道にコツコツと行なうことが最も大事なことです」
「暮らしの保健室」の開設は、「マギーズ東京」の設立に向けて大きなステップになったと秋山氏は語る。 「私としては、『暮らしの保健室』に『マギーズ東京準備室』という裏看板を掲げていたつもりなのです。どちらも目指す方向は同じで、地域包括ケアの二大理念である”尊厳の保持“・”自立支援“につながるものです」