それにしても、まるで秋山氏の想いに呼応するかのように、その実現に協力する人物が現れている。「暮らしの保健室」は空き店舗を提供してもらって開設した。その後にオープンした看護小規模多機能型居宅介護事業所「坂町ミモザの家」は、利用者の自宅を遺族が提供したいという申し出から始まった。「マギーズ東京」は、現在秋山氏とともに共同代表理事を務めるテレビ局記者・キャスターの鈴木美穂氏との出会いによって予定地のめどがついた。 うらやましいほどの強運に思えるが、それは単なる”運“ではなく、実践により連携先から深い信頼を得て、発信し続けて、理解者を増やしていった結果だ。2007年から地域住民向けのシンポジウムを地道に続けてきたこともそのひとつ。
「訪問看護は利用者のQOL*1、QOD*2、家族の満足度ともに高い。それなのになぜ拡がっていかないのか。病院で亡くなる方が8割の今、家で暮らし、看取るというのはどういうことなのかを具体的に示さなければわかってもらえない。地域ニーズはあるのに情報が届いていないと感じて、情報を発信しようとシンポジウムを始めたのです」
利用者の遺族が登壇して体験談を話すシンポジウム*3は感動を呼び、徐々に参加者が増えた。前述の空き店舗のオーナーもその聴衆のひとりだ。「伝え」てこそ、地域がつながり、パワーとなる。
「本当に必要なこと、仲間を増やしていかなければいけないことについては、きちんと情報発信していかなければなりません。 医療職も介護職も、みんな頑張っている。だけど、自分たちがそう思っているだけでは伝わりません」
全国への種をまく
「マギーズ東京」は、土地の利用権の事情で、2020年までの期限付きで開設されている。2020年以降もこの場所で継続できるよう、現在、さまざまな関係機関と調整を重ねているという。しかし、秋山氏の想いは、単に存続させることだけではない。
「ここ(豊洲)は、マギーズセンターのようなところが全国各地でもできるようにするための種まきの場だと思っています。看護師、臨床心理士を育成しながら、マギーズのヒューマンサポーティブケアが全国に広がっていくことを願っています」(取材・文/中保 裕子 写真/吉住 佳都子)
*1 QOL=生活の質(Quality of life)
*2 QOD=死の質(Quality of death) 悩みや苦痛のない、尊厳を重視した死の評価指標
*3 「この町で健やかに暮らし、安心して逝くために」 現在は新宿区の在宅医療シンポジウムとして開催されている