このコーナーでは、ATTENTION読者から寄せられた地域包括ケア取組事例を紹介する。
その第1号として、足立区多機能サービス連絡会の馬場美彦さんにインタビューした。
●東京都足立区の特徴
2010年から2014年にかけて、足立区の人口は全体で約6,000人増えたが、高齢者人口だけをみると約16,000人も増加している。足立区は、まさに高齢者が集まってきている場所といえる。比較的地価が安いこと、日暮里舎人ライナーという新しい路線ができたことなどが人口増加の理由としてあげられる。そのうえ、高齢者住宅が多いということが高齢者人口の増加を促している。特にサービス付き高齢者向け住宅は、23区全体のうち、棟数、戸数ともに2割以上が足立区にある。
足立区多機能サービス連絡会が活動するうえで、地域のつながりを開拓するツールとしての役割を果たしているのが広報誌『Orange 65』だ。地域包括支援センターに記事を依頼し「公」とのつながりを作りつつ、町内会の活動を紹介することで、足立区にある約480の町内会を対象に活動を展開しようとしている。町内会に聞き取りをしていくなかで、面白いことがわかってきたと馬場さんは言う。
「うちの職員が町内会の婦人部に入っているとか、ケアマネの義理のお兄さんが実は町内会長さんだとか、知らなかったことがわかってきて、つながりを深めやすくなりました」。町内会の範囲を示す足立区の地図をみながら馬場さんは愉快そうに話す。
複数の事業所の利用者とスタッフが参加するバス企画
そして、今一番頑張っているのは、バス企画だという。”高齢者が歩いて暮らせるまちづくりに関する実践・および調査・研究“というテーマで、「公益信託あだちまちづくりトラスト」から助成を受けて実施している、連絡会の活動の目玉だ。背景には、交通弱者・買物弱者となりやすい高齢者が増えていることがある。
月1回(2016年9月から)、足立区内の小規模多機能型居宅介護事業所をバス停に見立てて、西新井大師まで貸し切りバスを運行している。「ただ単にレクリエーションで楽しいねということではなくて、これが地域リハビリテーションとして効果があるということを示していきたい」と馬場さん。そして、この活動を通じてまた新たな発見をしたという。
「最近の交通機関は、すでにバリア(障がい)ではなくなりつつあると思います。たとえば、バスはノンステップで車いすでも入れますし。では、なにがバリアなのか。私たちはよく快適歩行速度と言って、歩行速度を測るのですが、高齢者はだいたい秒速0.8mを切っています。でも実は横断歩道の信号は、秒速1mを基準にしているので、ちょっと長い横断歩道になると怖くてわたれない。これがバリアの一つだと。だから、多少遠回りになっても、事業所のある側にバスを停めて運行するルートにしてあります」
ポイントは複数の事業所が一緒になって進めること。将来的には一般のバスが利用できることを目指して、そのためのリハビリとして行っていきたいとのこと。そして、「まずは、西新井大師の商店街の人たちと仲良くなり始めています」。このあたりに、地域の中で活動を展開するための独自の方向性がみえてくる。
人的なつながりを広げることがスムーズな活動をバックアップする。そのための手順を構築することが地域包括ケアには不可欠であろう。最後に成功のポイントを聞いてみた。すると意外な答えが返ってきた。
「私はもともと建築や都市計画が専門でした。いわゆる〈まちづくり〉で上手くいった手法をそのまま介護の現場にもってきたのです。広報誌を作る、町内会の人たちと一緒になにかやる。積み重ねられた成功事例をそのまま使わせてもらっているだけです」
そして次の構想は、「よく役所に障がいのある人たちの作品が展示されていますよね。今度は僕らにやらせてくださいとお願いするつもりです。そうやってつなげていきたいなと。これは私の発案ではないですが」
介護や地域包括ケアの歴史はまだ浅い。しかし視野を広げたり発想を変えたりしてみれば、ヒントはいろいろある。そして、人のつながりを作って広げていくことで、次の展開が見えてくるのだろう。
じゃすみん扇 ホーム長 馬場 美彦さん
東北大学大学院医学系研究科内部障害分野に在学中
取材協力/足立区多機能サービス連絡会
事務局 東京都足立区扇1-31-32
じゃすみん扇 TEL 03-6807-1278
足立区多機能サービス連絡会(代表:小規模多機能ホームこぐま 大久保信之)は、足立区内にある小規模多機能型居宅介護(13事業所)と看護小規模多機能型居宅介護(3事業所)によって構成される事業者団体
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