医療介護プラットフォームの活用
ビッグデータをもとに都市の運営がなされているデンマークですが、そんなデンマークでも少子高齢化が進んでいます。そのため、ロボットなどの技術革新によって、労働生産性の飛躍的な向上が図られています。日本の介護医療機器のいくつかも、デンマークでの実証事業を行い実際の介護の現場に導入されています。例えば、日本生まれのアザラシ型メンタルコミットロボット「パロ」はデンマークの介護施設で実証事業を行い、認知症や鬱の高齢者にとって実用性の高さが確認され、今ではデンマークのみならず、ヨーロッパやアメリカの高齢者施設で見られるようになりました。
そもそもデンマークでは、これらの医療介護機器を評価するためのデータベースが構築されているので、生活および医療のデータが取得しやすい環境にあります。つまり、CPRナンバーと紐付けられた個人情報と新生児記録・治療履歴・国立病理データバンク・疾病検査・他の研究機関での検査・予防接種履歴・処方箋データベース等々の紐付けが容易にできる環境にあります。様々な医療介護機器や医療アプリの開発において、国民の合意のもと、データベースを活用し、国内外の企業や公的機関とビジネスの推進を行っており、先進的な福祉機器開発が進められているのです。
日本では、個人情報の運用について最近盛んに議論されはじめましたが、すでにデンマークでは、データベースにあがっている個人情報を含めた情報が、国民の合意の上、産業育成、国家経済に活用されています。たとえば、国民のヘルスケアに関係するビッグデータが国内外の製薬メーカーや医療・介護機器開発企業に提供されているのです。オーフス市では、様々な介護機器を導入した実証実験用の介護施設 ”Vikaergaarden (ヴィカーガーデン)“を建設し、その中で利用者に介護機器を実際に使ってもらい、そこで取得されたデータを活用して、介護機器の評価を行っています。ここでの評価は、利用者にとってどれだけ有効か、介護する側にとってはどうか、経済的な効果をどのようにもたらすのかなど、多様で詳細な項目によって構成されています。
この評価はかなり厳しいものですが、その基準を満たした製品はデンマークのみならずヨーロッパにおいても認められるため、世界の多くの企業がここでの評価を望んでいます。日本の介護機器には多くの期待が寄せられているものの、実際デンマークでの評価が厳しく、継続した製品開発につなげられない企業も多いと聞きました。
このようにデンマークでは、国に集められたビッグデータを活用した産業振興が始まっており、オーフス市では医療介護機器にかぎらず、そこで作られた製品を”SMART AARHUS(スマートオーフス)“としてブランド化することも行われています。最近では日本でも、経済産業省や厚生労働省などによる、ビッグデータを活用した産業育成やAI、IOT事業の育成が話題となっていますが、デンマークではすでに世界の企業や公共機関との事業化を進めています。日本とデンマークの差を大きく感じるセミナーでした。
厳しい基準を満たした製品はヨーロッパ各国においても認められる
*1 スイスビジネススクールのIMD調査(2015年)
*2 2012年、2013年、世界幸福度ランキング1位
(コロンビア大学地球研究所調査)
*3 Electronic Health Record:生涯健康医療電子記録
阿久津 靖子氏
あくつ やすこ
株式会社MTヘルスケアデザイン研究所 代表取締役・所長
筑波大学大学院理科系修士環境科学研究科にて地域計画を学び、GKインダストリアルデザイン研究所入社。プロダクト製品開発のための基礎研究や街づくり基本計画に携わる。1999年、子育て期の終了とともに、子ども家具「フォルミオ」で情報発信型店舗の運営を行い、その後、寝具会社数社にて商品企画開発(MD)および研究、店舗の立ち上げ、マネジメントを行う。その当時より、ヘルスケアライフスタイル創造を目指す製品開発や店舗プロモーションを模索し、(株)メディシンク ヘルスケアデザイン研究所企画室長として参画。2012年独立し、デザインリサーチファームとして(株)MTヘルスケアデザイン研究所を創業。