施設ガーデン施工事例

健康的な毎日を支え、 施設、地域、人をつなぐ庭の力

  • No.72018年5月31日発行
新旧の高齢者施設に面した庭は、
健康的でいきいきとした毎日を支える
工夫が詰まった場所であり、
新たなコミュニティスペースにもなっている。

取材協力/社会福祉法人百丈山合掌会(大阪府寝屋川市成田東が丘28-7)
取材・文/富田 チヤコ 写真/吉住 佳都子

緑に囲まれた小高い丘の上に立つのが、サービス付き高齢者向け住宅「サンサーラ・レジデンス」だ。高齢者や障がい者が安心して地域で暮らせるための拠点として、2016年に開設された。この施 設に隣接するのが、昭和50年代に開所された特別養護老人ホームだ。40年以上にわたって地域福祉のニーズを探りながら実績を積み重ね、今なお高齢者や障がい者の 生活に寄り添ったサービスを行う拠点にもなっている。

「私たち人間は、いくつになっても自分らしく、いきいきと輝ける 場所が必要です。四季の美しさを感じられる庭を散歩することで、高齢者は健康的で、いきいきとした時間を過ごすことができます。また地域の人たちにも庭を開放 すれば、訪れた地域の人と施設の高齢者が自然にコミュニケーションをとることができます。この庭を、施設と地域の人とをつなぐ空間にしたいと考えました」と話すのは、総合施設長の拜殿未央さん。

高齢者に配慮した バリアフリー設計 歩行改善の事例も

この思いを実現させ、高齢者の健康に配慮した庭を設計したのが、「ザ・シーズン」だ。体の機能が低下した高齢者や車椅子に乗った人でも安心して庭を通れるように、エントランスからカフェへと向かうレンガ敷きのアプローチはバリアフリー。ゆるやかなカーブをつけることで、自然に奥へと歩きたくなるように、リズミカルな動線に仕上げた。また半円の花壇の石積みは、立ち座りしやすいように高さを45 に。散策の休憩に利用できるベンチを兼ねている。高齢者が体を休めながらゆったりとした時間を過ごせる庭を目指した。

庭が完成してまだ1年にも満たないが、毎日のように散歩する入居者の一人は、徐々に歩行距離が伸び、要介護度が改善。歩く楽しみが、高齢者の生活の質を向上させることにつながったケースも出てきた。

併設されたカフェのテラス席では、季節の
移ろいを感じながら、管理栄養士が考案した食事を誰でも気軽に楽しめる

「新旧の高齢者施設と地域をつなぐ庭は、訪れるすべての人にとって憩いの場であり、四季折々に変化する自然を一番身近に感じられる空間です。訪れるたびに、高齢者がどこか懐かしく感じられるような庭を作りたいと思いました」と話すのはマスターデザイナーの植田隆行さん。

里山の雑木林のような風景になるように、日当たりと風通しから木々の組み合わせを考えて植栽。さらにこの庭を、利用者とスタッフの会話が生まれる場所とするために、木や花の名前を書いたオリジナルのネームタグも取り付けた。こうしたタグには、高齢者の知的好奇心を引き出す効果も期待できそうだ。

「車椅子で散歩をする高齢者とご家族の姿を見ると、今回工事のご依頼をいただき、本当によかったと感じます」と話す植田さん。新旧の施設をやさしく包み込む庭は、入居する高齢者と地域の人たちがいきいきとできる場であり、訪れるすべての人にとって心安らぐコミュニティスペースとなっている。

2つの3連フレームを布で覆うと、園路部分に日かげをつくることが可能に。施設イベント時にも活用できる

総合施設長(写真中央)とサンサーラのスタッフ。「今日はどんな花が咲いているのか、通るたびに私もワクワクします。庭があることで、私たちも気持ちよく働けます」
(相談員・田中久美子さん/右から2番目)

健康増進施設では、庭に面した大きなガラス窓を見ながら運動も可能。「新緑の季節は、特に気持ちよく体を動かせます」(理学療法士・梅木正篤さん)

新旧の施設をつなぐのは、シンボルツリーのサルスベリ。奥にあるカフェへと、自然に歩きたくなるアプローチ

マスターデザイナーの植田隆行さん
「これからもお客様とともに、世界に一つだけの庭をご提案させていただきます」

入居者の山本守さん。「毎日のように庭を散歩しているうちに、杖をついて歩けるようになった」という。 車椅子の人も緑を身近に感じることのできる高さの植栽。半円の石積みはベンチを兼ねている


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