テーマは、“Experience the intersection of innovation and aging(高齢社会とイノベーションの交差点を体験する)”。今回は、その模様をお伝えします。
Aging2.0は、世界20カ国に50のボランティアチャプターがあり、15,000人の仲間がいます。Aging2.0 OPTIMIZEは、昨年11月14日、15日にサンフランシスコのハーベストシアターで開催されました。参加人数は1,000名ほどで、サンフランシスコ・ベイエリアの介護関係者やスタートアップがその多くを占めます。ヨーロッパの国々、ブラジル、香港などから多くの参加があり、世界的に関心の高さがうかがえます。“Aging”とは、「高齢者になってもいきいきと生活できる社会(コミュニティ)」という大きな意味で捉えた方がわかりやすいと思います。
「デザイン思考」を知る
このOPTIMISMでは、“Design Thinking(=デザイン思考)”について多く語られていました。「デザイン思考」という言葉は、日本でもビジネスの世界でよく使われるようになりました。しかし、どういう意味なのかわかりにくいという人も多いのではないでしょうか? そこで、デザイン思考についても皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
最近、「AI・IoT・ロボティクス」という言葉を毎日のように耳にします。そして、日本の医療・介護の世界では、それらを活用した介護の負担軽減ばかりが取り沙汰されています。しかし、「AI・IoT・ロボティクス」を活用することによって、高齢者の生活がどのように変わるのか、高齢者をとりまくコミュニティがどのように変化するのか、介護のあり方にどう影響するのかということが重要であることを理解しなければなりません。日本のスタートアップの多くが技術面の話に終始し、その技術によって何がどう変わるのか、果たして市場をつくることができるのかという話には全く触れないという場面によく出くわすことがあります。技術だけでは何も解決できないのです。デザイン思考というと「デザイン?それは関係ない」という人もいると思いますが、「AI・IoT・ロボティクス」を活用したヘルスケアテクノロジーを考える上では、デザイン思考はとても重要です。
AI時代におけるデザインの原則
オープニングのKEY NOTEスピーチは「ニューテクノロジーとUX(User experience)の融合したデザイン」の提唱者でありデザイナーでもあるYves Béhar(fuseprojec社Funder and COO)から始まりました。彼は未来をデザインすることの重要性を語りました。これまでデザイナーは、2次元のロゴやポスターなどのコミュニケーションツールや、3次元のプロダクトデザインをするものでした。しかし、テクノロジーが時代を牽引する今、目に見えるものだけではなく、時間やスペース、そして人の動きなどもデザインの領域になりました。このKEY NOTEスピーチでは、「ロボット、AI、スマート環境の時代におけるデザインの10原則」の提言がありました。私の会社は、ヘルスケア領域におけるデザインコンサルティングを行っている会社ですが、まさにこの「10原則」は、私たちがデザインを提供する時に考えなければならない、使命とも言うべきものです。今回のOPTIMISMでの事例を交えながら、10原則の一部をご紹介しましょう。
Aging2.0の世界大会、「Aging2.0 OPTIMISM」について、オープニングのKEY NOTEスピーチにおける「デザイン思考」の内容を中心にお伝えしてきました。次回は他のセッションとサービスを見ながら、そこで話されたデザイン思考についてご紹介します。
PRINCIPLES FOR DESIGN IN THE AGE OF AI
AI時代におけるデザインの原則
② 良いデザインは、状況に合わせる
③ 良いデザインは、人間の能力を強化する
④ 良いデザインは、控えめで日常的である
⑤ 良いデザインは、日常の生活を豊かにする
⑥ 良いデザインは、ニーズと機会にあわせて成長するプラットフォームである
⑦ 良いデザインは、学んで人間の行動を予測する
⑧ 良いデザインは、長期間の関係を構築できるプロダクトでありサービスである
⑨ 良いデザインは、新たなアイデアを加速的に産み出す
⑩ 良いデザインは、生活のわずらわしさを取り除く
良いデザインは、状況に合わせる(原則②)
提供するサービスやプロダクトが高齢者の生活におけるどのような課題を解決できるのか、本当に解決すべき課題は何なのかを、高齢者の生活を観察しながら見つけ出していくことが大切です。高齢者の生活のニーズに応えるものを提供していくことはデザインの役割といえます。
良いデザインは、人間の能力を強化する(原則③)
今回発表された、SUPERFLEX社(米カリフォルニア州パロアルト)による高齢者サポートスーツ。課題は、身体の自然な動き(ちょっとした動き、静的な動き)に反応すること。そして革新的で着用可能な技術。身体を動かす際の筋電信号をひろって、胴体、臀部(でんぶ)、腰、脚の筋肉を補助(支援)して、立ったり座ったりといった動きのサポートをするように設計されています。使用者の弱くなった筋力と合わせて、動作を自然に補強します。
良いデザインは、控えめで日常的である(原則④)
良いデザインは、日常の生活を豊かにする(原則⑤)
良いデザインは、学んで人間の行動を予測する(原則⑦)
今回の最も印象的だったのは、高齢者のコンパニオンロボット“ELLI・Q”。今年アメリカでリリースされます。スケジュール管理、ゲームコンテンツの提案(ゲームをやろうと誘う)、家族からのテレビ電話のつなぎなどを行う、一人暮らしの高齢者の生活サポートをするロボットです。使いやすいうえ、Androidで開発されていてたくさんのコンテンツが搭載されているため、多くの高齢者に受け入れられることが予想されます。多くの高齢者が使用すれば、それだけ多くのAIデータが集まり、高齢者の行動を予測できるようになります。
日本でも、「AIによる介護サポートを」とよく言われますが、それを実現するためにはデータが重要です。そして高齢者が使いやすく、馴染みやすいデザインが欠かせません。今回は、こうした高齢者のコンパニオンロボットのあり方が数多く提案されましたが、その中には日本で昨年より出始めたAmazonエコーやGoogleホームを活用した高齢者サポートの事例も多くありました。
阿久津 靖子氏
あくつ やすこ
株式会社MTヘルスケアデザイン研究所
代表取締役・所長
一般社団法人
日本次世代型先進高齢社会研究機構 理事
Aging 2.0 Tokyo chapter ambassador
筑波大学大学院理科系修士環境科学研究科にて地域計画を学び、GKインダストリアルデザイン研究所入社。プロダクト製品開発のための基礎研究や街づくり基本計画に携わる。子育て期を終えてからは数社にて商品企画開発および研究、店舗の立ち上げ、マネジメントを行う。その後、ヘルスケアライフスタイル創造を目指す製品開発や店舗プロモーションを模索し、(株)メディシンクに参画。2012年、デザインリサーチファームとして(株)MTヘルスケアデザイン研究所設立。