取材・文/中澤 まゆみ 写真/吉住 佳都子
在宅医療連携拠点「菜のはな」から地域に向けた活動を展開
コミュニティケア拠点である「菜のはな」は、同病院の待合室横の廊下を改造した2部屋だ。ここでは、住民の健康電話相談から、「暮らしの保健室」の出前、多職種連携や地域ケア会議、市民イベントのバックアップまで、地域コミュニティに向けたさまざまな活動を展開している。
在宅医療連携拠点事業(厚労省)のモデル事業として、中野さんが「菜のはな」を始めたのは、東埼玉総合病院が隣の杉戸町から幸手市に移転した2012年のこと。その翌年に出版された社会学者、秋山美紀さんの『コミュニティヘルスのある社会へ』(岩波書店)で、筆者はその存在を知った。高齢化の進む団地の隣に移転してきた病院の医師と医療介護の専門職が、団地内のコミュニティカフェに「暮らしの保健室」を出前し、団地を個別訪問して聞き取り調査をやっている。しかもアウトリーチで上がってきたデータの入力を、住民グループが協力することで、地域の人資源発掘にもつながっているとある。
折しも、国は2012年の介護保険制度改正の目玉として、2025年に向けた「地域包括ケアシステム」を打ち出したばかり。国の描くイメージだけがひとり歩きし、行政や医療が主導する「地域包括ケア」が語られる中で、筆者が訪れた「幸手」は秋山さんの本よりも、さらに進化していた。「保健室」という病院の縁側から、地域住民に向けてケアのコミュニティづくりを発信し始めた「菜のはな」は、スタートから1年あまりで、住民が主催する「地域ケア会議」や、多職種協働のための「ケアカフェさって」まで実現していたのだ。
スタートから5年。住民からの要請で定期的に出前する幸手の「暮らしの保健室」は、37か所に増えた。個人宅やお寺ばかりか、最近では工務店、蕎麦屋などの地場産業にまで広がっている。2016年度の参加者は、2月現在で2709人。「保健室」では後日の電話相談や面談も受けつけるが、相談者834人のうち、「保健室」の対応で674人が完結し、実際に医療機関につながった人は121人だった。「保健室」があることで、潜在的に医療を必要としていた人を医療機関につなげることができるばかりではなく、医療機関の負担を軽減する効果があると、中野さんは考えている。